こんなチャンスって滅多に無いよね〜。
よっし!書くぞお〜!


エステルが僕にお願いしてきたのは“今のユウの絵を描いて欲しい”とのこと。
まあ、僕自身も描いてみたいと思ってたから快く了承した。


僕はスケッチブックと鉛筆を取り出した。
まずは軽くスケッチしてみようかな。





「ユー坊、それはなんじゃ?」

「ぎーととねーもーぜしゅあにき!」

「おお!ワイらか!嬉しいのーギートっ!」

「ガウッ」



昼寝から起きたは大きい紙にクレヨンで絵を描いている。
それは普通の子どもが描いたような…って結構上手っ!

そっか…そうゆうとこは変わってないんだ。





結構のほほんとしたいい空気じゃん。
よしっ早速開始!







「ぎーと、きょーはいっぱいくえすとしたんだよ」
「ガウ」
「らぴーどにのってねーぐるぐるまわってね〜」
「ガウウ」
「ぎーとにものっていいの?」
「ガウ!」
「じゃあこんどぴくにっくいこう〜」
「オンッ」





会話成立してんのかな〜あれって。
でも、ギートも頷いてるし…

よしっ!描けた…けどなんか違うなあ。
なんか、活き活きとしてないってゆうか……やりなおし!!











「ベリルちゃーん。夕食作るから手伝って?」

「あ、うん。今行くよー」





次はご飯時のを観察してみよっと!








手伝いという名目はあったけど、ほとんどゼロスが作っちゃった。
テーブルの上には色鮮やかな夕食が並ぶ。
うっわー…これだけでゲージュツって感じ。



は指定の席に着くと、嬉しそうに顔を綻ばせた。
その理由は勿論、の目の前にあるメニューだ。




の!いっぱい、いろんなののってる!!」




一枚のプレートに旗付きチキンライスやハンバーグ、エビフライにポテトサラダ。
極めつけがデザートのババロア、つまりはお子様ランチ。





「いちいち小分けにしてやるより、この方が手っ取り早いでしょーが。おら、。感謝して食えよ」
「あいっ!いただきましゅ!」



素っ気ない言い方だけど、僕知ってるんだ。

ゼロスがこのプレート作る時、めっちゃ配置やメニューに悩んでたこと。





「おお!ユー坊のええのう!」
、良かったですね!」


「うん!ぜろしゅおにーちゃありがとー!」

「…ま、このくらい俺様にかかれば造作もないってことよ」





照れてるんだー。珍しい表情が見れちゃったな。







でもこうして見ると、ってくるくる表情が変わるなあ。
料理に一喜一憂したり、子供扱いされると拗ねたり。
これは中々、一筋縄じゃいかないかも〜?
















ご飯の後、僕とエステルは大浴場へ向かった。
とっても広いバスルームにチョー感動しながら、今日一日のの顔を思い出してみた。

確かにいい表情はいっぱいあったけど…どれも決定打にかけるんだよなあ…。





「ベリル、どうしました?」
「う〜〜〜〜ん…なんでか思うように描けないんだ」
「え?なんでです?」
「僕にもさーっぱり。あんなに描き甲斐があるモデルなのになあ〜…なんでだろう」




まだスケッチしか描いてないけど、何故かどれも納得がいかなくて…。




「そうですね…。一瞬での表情は変わりますから…それを絵に収めるのは中々骨が折れそうです」
「それもあるけど…。なんてゆーか…一枚じゃ収まりきらないカンジがする」
「それだけ、の存在が大きいってことじゃないでしょうか?」





確かに


いつも皆の中心にいる



色んな表情を持ってて、見てて飽きなくて



一枚のキャンパスなんかじゃ収まりきらない程の存在感。







「…でも、僕はゲージュツ家として…今回の絵は絶対に描きあげたいんだ」
「頑張ってください!私もベリルの絵、すごい楽しみにしてます!」
「…よーし!!頑張るぞーーーー!!!」








お風呂から上がると、がギートの毛をモーゼスと一緒に乾かしていた。
チャンス!とばかりにスケッチをしてみるけど…う〜ん、やっぱり上手くいかないなあ。


時間が経つにつれ、が船をこぎだした。







、眠いのか?」
「…んー」
「しゃーねえなあ。ギート、と一緒に寝てやってくれ」
「オンッ」




ゼロスがを抱きかかえ、男子部屋へと向かう。
あ〜〜〜〜…寝顔も見たかったなあ。




そうこうしている内に夜も更けて、僕達も寝ることにした。


眠る前にスケッチブックをパラパラとめくってみる。



遊んでいる

ご飯を食べている

ギートと戯れている

うとうとしている



どれも、そこそこってレベルだなあ…。





、と言えば…





戦闘ではチョー強くって
誰にでも優しくって
でも時々すっごい子供っぽいところがあって


僕が知ってるはそれくらい。



スケッチブックを閉じて、横になると隣のベッドのエステルが声をかけてきた。





「ベリル、わたし明日と一緒に朝食を作るんです」
「そうなの?」
「最後に、そのを見てみたらどうです?」
「…そうだね」





そっか…明日で終わりなんだっけ…。



僕の意識はゆっくりと眠りにおちていった。




















ふ、と意識が浮上すると朝日が差し込んでいた。

…え、もう朝?
なんか、すごいふっかーい眠りだったなあ…。





朝食当番のエステルはもういない。
僕は寝ぼけた頭をしっかり覚醒させて、身支度を済ませた。






今ならエステルとが朝食を作ってる筈…急がなきゃ。











階段を下りると、いい匂いがしてくる。

もう完成間近なのかな?







キッチンの中を覗いてみると、お鍋の前でスープをかき混ぜているエステルとその周りでちょこまか動いている
…何してんだろ、


僕は中に入ってみた。





「おっはよ〜。めーっちゃいい匂いだねえ」
「あ、ベリル!おはようございます。今起こそうかなと思ったんですよ」
「べりる、おはよー!」




は両手でお皿を抱えて、僕の所に走ってきた。



「みてみて!がつくったの!」



そのお皿の上には少し歪なパンケーキ、チョコレートや生クリームでデコってある。



…あれ、でもこの形って…



「わかったー!これ、ミュウだ!」
「せいかーい!!」




パンケーキがミュウの形になって、フルーツやクリームで顔を描いてる。
見れば他にも色々な顔のパンケーキがあった。




「パンケーキは全部が作ってくれたんです」
「すっごーいよ!食べるのがチョー勿体無いね!」
「えへへ!!」



満面の笑みを浮かべる、この表情を見て僕はハッとした。






…そっか…。
子供のなんだもん。



僕が今まで見てきたのは“大人”のだ。
子供と大人じゃ、やっぱり表情や感情が違う。


しっくりこないのは…僕が今のに戸惑っていたんだ。















ゼロスやモーゼスも起きてきて、皆で朝食を食べて
最後の団欒を味わって




ようやく、僕の描きたいものがわかったよ。












次のメンバーと交代する為、広場に向かう道中僕はエステルに声をかけた。



「エステル」
「はい?」
「僕、ようやく描きたい構図が浮かんだよ」
「ホントです?!どんなのですか?」








「“今のの笑顔”を描くんだ」





今しか見れない、今のだけが出せる笑顔。





「…楽しみに待ってますね!」
「うんっ!よっしゃー燃えてきたぞー!!」












「お、あれじゃね?次のメンバー」
「おお、誰じゃ?」




「あー!」




が声を上げて、走り出した。
僕たちもそれについて駆けて行く。







「みらー!」
!どうだ、不便なことはないか?」
「だいじょーぶ!」




待ち合わせ場所にいたのは、ミラ・コンウェイ・ジュディス・ユージーン。
大人組…って感じ?




「ミラ様〜!ジュディスちゃ〜ん!、お前羨ましい奴だなあ!!」
「ほんまじゃのう…バリボーな姐さんと一緒…ワイも子供になりたいのぅ…」



チョー失礼じゃない!?
僕たちっていう可愛い女子と一晩を共にしといて!





「お前たち、変わったことは無かったか?」
「はい、とても楽しかったです!疲れもとれて、良いリフレッシュになりました」



くん、今日はよろしくね」
「あい。こちらこそなの」
「うふふ。私今日をすごく楽しみにしていたのよ」






さあ、これから忙しくなるぞお!
早く筆を握りたくてうずうずしてるんだ。




今の、今だけの



の笑顔を描くんだから!!!